いつものように夜間にランニングをしていると、ふとこちらに向かってくる男性のきらりと光る眼差しがちらりと視界に入りました。
ああ、と思い出す人がいました。
今の住まいへ引っ越す前に、自宅近くのスポーツジムに通っていたのですが、そこで毎晩のように会い、軽く会釈をするようになったのが彼でした。
一目見たとき、夫に似ているな、そう思いました。
見れば見るほど似ているようで、ぼんやり見つめながら、ああ、私は2度、夫に恋をしているんだなと、心の中で苦笑いです。
とても美しい泳ぎ方をする人で、静かにしかし速く、そのことにも私は魅了され、スイミングスクールへ入会するわけなので、我ながら、思うより足が先、そういう人間なんです。そこからスキンダイビングへと繋がっていくのだから、人生面白いものです。行動すれば、何かを必ず、経験できるのです。
彼は、独特な雰囲気を持っていました。人を近づけない、厳しさがあり、そしてあの眼差し、暗闇でもきらりと光る眼差しを持っていました。トライアスリートであることを、ふと耳にしましたが、なるほどそうかもしれないな、そんな人でした。
当時の私は結婚していたし、どうなるわけでもない、もう若くもないのだし、と、もちろん、なんのアクションも起こしません。
そのうち彼は来なくなり、私も次第に忘れていきました。
数年たって、今の住まいに越すときはそれでも、もう彼と会うことは2度とないな、とふと、思ったものです。
こちらの生活が落ち着いてきたころ、またランニングを始めました。
ちょうど土手の近くであったので、コースには困りませんでしたから。
そんな時でした、懐かしい眼差しを見たのは。しかし、その時は彼を思い出しただけで、似ているなと通り過ぎました。だってまさかここで逢うわけはありませんから。
しかし、それからあまり日をまたぐことなく、ランニング中に後ろから、美妃さん!と、声をかけられ、不審に思って立ち止まると、それはなんと、あの眼差し、彼だったのです。
なんでこんなところに?訊けば、この街に引っ越しをしたと。
今までは彼は逆方向を走っていたのだけれど、たまたまこちらのコースへ来たのだと。
こんな偶然があるのかと、話をしながら呆然としていました。
それ以来、また毎日のように会うようになり、自然に話す機会も増えました。
夫を亡くしていた私は、夫によく似た彼と再会する不思議、さまざまな偶然が重なっての出会いに何かの誘いを感じていました。
あの時もしもこうしていなかったら、その積み重ねで再会したわけですから。
元から、互いに惹かれあっていた私たちが、恋人の関係を結ぶのにはたいして時間もかかりませんでした。
あの日、声をかけてくれたのは、奇しくもクリスマス・イブの夜のことでした。
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